日本の高齢化が問題視されていることは周知の事実ですが、実際のところどれほど深刻化しているかご存知でしょうか。
高齢化の影響として、医療・福祉のあり方をはじめ、特定の業界における人材不足、社会保障制度や財政問題、経済成長率の低迷など、さまざまな課題が挙げられます。
今回は、高齢者や高齢者世帯の推移をもとに、高齢者の暮らしについて考えたいと思います。なかでも、高齢者の自立した暮らしに焦点を当ててみました。
目次
高齢者の推移~現状と未来予測~
内閣府発表のデータによると、我が国の65歳以上人口は3割近くにも上るということです。
今後も少子高齢化は進むことが予測されており、少子化対策とともに、高齢者のこれからの暮らしについても考える必要があります。
高齢者の推移について、以下でさらに詳しく見ていきましょう。
出典:内閣府『令和3年版高齢社会白書(全体版)』
65歳以上人口は3,619万人・高齢化率は28.8%
内閣府発表の『令和3年版高齢社会白書(全体版)』によると、我が国の総人口は、令和2年10月時点で1億2,571万人でした。
そのうち65歳以上人口は3,619万人で、総人口に占める高齢者の割合は、28.8%(=高齢化率)となりました。
さらに、65歳以上の人口を男女別に見ると、男性が1,574万人、女性が2,045万人で、男性対女性の比率は約3対4ということがわかります。
また、65歳以上の人口のうち、「65〜74歳人口」は1,747万人で総人口に占める割合は13.9%、「75歳以上人口」は1,872万人で総人口に占める割合は14.9%と、65~74歳人口を上回っていることも注視すべき点です。
出典:内閣府『令和3年版高齢社会白書(全体版)> 1 高齢化の現状と将来像』
将来推計人口から予測される2065年の日本
国立社会保障・人口問題研究所が発表した『日本の将来推計人口(平成 29 年推計) 』によると、2036年には高齢化率が33.3%で、3人に1人が高齢者となることが予測されています。
さらに2065年には、高齢化率38.4%に達して、国民の約2.6人に1人が65歳以上の者となる社会が到来するという予測が立てられています。
このような推移を見ると、少なくとも今から十数年後には国民の約3人に1人が高齢者となる時代が訪れようとしていることがわかります。
出典:国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成 29 年推計)』
高齢者世帯の推移について
次に、高齢者世帯の推移についても見ていきましょう。
すでに全世帯の約半分が、65歳以上の高齢者がいる世帯となっています。
またそのなかでも、一人暮らし世帯が増加傾向にある点が注目されています。
出典:内閣府『令和3年版高齢社会白書(全体版)>3 家族と世帯』
全世帯の約半分が、65歳以上の者のいる世帯
2019年の時点で、65歳以上の人がいる世帯数は2,558万4千世帯と、全世帯(5,178万5千世帯)のうち49.4%を占めているということです。
約半数が、高齢者のいる世帯へと推移しています。
さらに世帯構造に関する推移をみると、1980年には三世代世帯の割合が1番高く、全体の約半数を占めていました。
ところが2019年では、夫婦のみ世帯が1番高い割合で、約3割といったように推移しています。また、単独世帯と合わせると約6割に上ります。
65歳以上の一人暮らし世帯は増加傾向
65歳以上の一人暮らし世帯は、男女ともに増加傾向にあります。
1980年には、男性約19万人・女性約69万人と、65歳以上人口に占める割合は男性4.3%・女性11.2%でした。
ところが2015年には、男性約192万人・女性約400万人と、65歳以上人口に占める割合は、男性13.3%・女性21.1%といったように推移しています。
出典:内閣府『令和3年版高齢社会白書(全体版)>3 家族と世帯』
高齢者の一人暮らしで考えるべき自立した生活
高齢者の一人暮らし増加という推移が見られるなか、問題視されているのが高齢者のQOLの低下です。
一人暮らしをする高齢者が自立して生活を送るためには、このQOLがキーワードとなります。
QOLとは、「Quality of life(クオリティ オブ ライフ)」の略で、は「生活の質」や「生命の質」などと訳されます。
看護や介護の現場で用いられることも多い言葉です。
患者や要介護者の身体的な苦痛の軽減や精神的・社会的活動を含めた活力や生きがい、満足度などの意味が含まれます。
QOLが低下すると、心身の機能低下につながると考えられており、健康寿命を伸ばすという観点からも重要視されているのです。
高齢者におけるQOLとは?
高齢者におけるQOLには、以下の要素が大きく関わっていると考えられています。
▼高齢者のQOLに関わる要素
・心身の状態や認知力、日常生活動作(ADL)の向上などの健康状態
・所得や貯蓄などの経済状態
・地域活動や就労などの社会的活動
・安定した住まいや頼れる人の存在などの生活環境
そのほか、その人らしい人生の楽しみ方や大事にしている価値観、幸福感などの主観的な要素が満たされていることも、高齢者のQOL向上においては重要です。
高齢者の自立した暮らしに大切なこと
高齢者のQOL向上の必要性をふまえて、高齢者が自立した生活を送るためには何が大切か、解説します。
自ら取り組むことが難しい方もいるかと思います。その場合には、家族や周囲の人たちが以下のように促してあげるとよいでしょう。
①生きがいを持つ
高齢者世帯、とくに一人暮らし世帯の高齢者に とって最も大切なことともいえるのが、生きがいを持つことです。
その人なりの生きがいを持つことが、QOLの向上に直結します。
「生きがい」というと何か大それたことのように感じるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
散歩をするでも、花を育てるでも、その人にとって楽しみなことであれば、それは立派な生きがいです。
毎日のほんの些細な楽しみを持つことは、高齢者の自立した暮らしにつながります。
②社会参加の促進
1人で楽しめる趣味を持つこと以外に、人とのつながりがあると、より充実した生活が実現します。
そのためには、社会参加の機会を積極的に設けることが効果的です。
地域の行事に参加したり、仕事をしたりすると、人とのつながりが持てるほか、身体機能の維持・向上にも効果が期待できます。
ボランティアへの参加も、やりがいを感じやすくておすすめです。
身体状態によってアクティブな行動が難しい場合でも、近所の人と挨拶をしたり会話をしたりする機会があると、QOLの向上につながります、
③安心した暮らしのための環境づくり<
高齢者の一人暮らしの安全性を高めるため、防犯対策も必須です。安心した生活が送れるからこそ、自立した暮らしが実現可能になります。
ドアと窓ごとに2つの鍵(ワンドア・ツーロック)が必要です。
家の外回りの環境によっては、防犯カメラも有効です。侵入されやすい場所の有無も定期的に確認しましょう。
ホームセキュリティや見守りシステムなどのサービス・システムを利用することも、ひとつの方法です。
インターネットを通じて、家族などが高齢者の安否確認できます。
また、日頃から家族と連絡を取り合ったり、ご近所付き合いしたりしておくといざという時安心です。
人とつながりを持つことは、防犯面でも安心材料となります。
④食生活の充実
食事の質は、生活の充実度や満足度に直結します。
人と会話を楽しみながらする食事、美味しい食事、栄養バランスの整った食事など、食生活の充実を目指すことが大切です。
また、食事は人生の楽しみであるとともに、身体機能の維持・向上にもつながる重要な行動のひとつです。
咀嚼する力や飲み込む力が衰えないように、毎日しっかりと食事をとることが重要といえます。
自立した生活のためには自分で食事を用意することも大切ですが、困難な状況にある場合には、宅食サービスや宅配弁当サービスなどを利用することもひとつの方法です。
⑤介護サービスを利用する
食事の宅配サービスのほか、利用できる民間のサービスや、介護サービス等を活用することで、QOLを高めることも有効です。
各自治体では福祉サービスの一環として、日常生活自立支援事業を実施しています。
高齢者や障がいを持つ人々が、住み慣れた地域で安心かつ快適に、自立した生活が送れるようなサポートをすることが主な目的です。
日常生活で不安に感じていること、不便に思っていることがあれば、利用できるサービスがないか確認してみることをおすすめします。
高齢者の自立した暮らしのキーワードはQOL
高齢者世帯の推移を見ると、増加し続けていることがわかります。今や、全世帯のなかで約半数が、65歳の人を含む世帯であるということです。
また高齢夫婦世帯や、高齢者の一人暮らし世帯の割合が高くなっています。
高齢者が自立した生活を送ることが必要とされる時代です。自立した暮らしの実現には、QOLの向上がキーワードとなります。
ご本人をはじめ、家族の立場からも、高齢者のQOLが高まるような暮らし方について考えることが求められます。
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