梅干しに梅ジュース、梅酒、梅雨を前に、八百屋の店頭には、あふれんばかりの梅が並びますね。梅雨前の梅仕事を楽しみにしておられる方も多く、梅干しは日本が誇るスーパーフードの一つです。今回はそんな梅や梅干しの栄養、効能や、昔ながらの梅干しの漬け方をご紹介します。
目次
梅とはどのような果物なのでしょうか
植物としての梅の由来は諸説あります。有力なものの一つは、原産地は中国湖北省近辺で、奈良時代以前に遣唐使により中国より持ち込まれたとされる説。一方、山口県、京都府、奈良県をはじめとする全国各地の弥生時代の遺跡から梅の木および種子の断片が確認され、もとより日本に自生していた、という説があります。
梅の木は日本でも古くから親しまれ、人々は梅の花に春の訪れを感じ、愛でていたようですが、その実は単なる食用ではなく、「烏梅(うばい)」という薬に加工して利用していました。烏梅は未熟な梅を真っ黒になるまでいぶし、乾燥させたもので、低下した肺や腸の機能を回復させ、体を温め、咳止めや消化不良、下痢止め、回虫の駆除などに効果があるとされています。
日本では薬用以外に染織(紅花染め)の色止めとして利用されていましたが、現在は奈良県月ケ瀬地区でのみ生産されています。
一方、現在まで作り継がれている梅干しは今や日本が誇るスーパーフードとして愛され、ご家庭の味で毎年の梅仕事を楽しみにしておられる方も多いことと思います。
梅干しの歴史も古く、平安時代にはすでに作られていたことが、984年に執筆された日本最古の医学書『医心方』により確認できます。この頃は貴族などの間で薬として利用されていました。
広く庶民に食べられるようになったのは江戸時代に入ってからのことで、江戸で食べられていたものが全国に広まり、特に和歌山は紀州田辺・南部の梅は質が良いと特産品となりました。
その後、明治時代になり、コレラ菌をはじめとする病原菌に対する殺菌力が認められ、梅干しの需要が増していったということです。
梅の栄養価とは?
さまざまな薬効を含み、スーパーフードともいわれる梅干しとは違い、生の梅にはアミグダリンという物質が含まれています。これは私たちが食べたとき、胃酸と混ざり合うことで青酸という猛毒の物質を生み出してしまい、生食には不向きです。今回は梅ではなく、梅干しについての栄養素をご紹介します。
① カリウム
カリウムは主に私たちの細胞内液に含まれ、過剰に摂取したナトリウムを排泄し、むくみ予防、血圧安定に効果があります。
また、近年の研究で、骨密度の増加を促し、骨粗しょう症予防に一役かっていることがわかってきました。
梅干し100あたり440mgのカリウムを含んでいます。
② 有機酸類
・クエン酸
梅干しの酸味成分の一つ、クエン酸は私たちが食べたものを体内で分解し、エネルギを生成する働きを促進させます。これをクエン酸サイクルといい、体内の脂質や筋肉疲労で発生する酸性物質、乳酸を減らし、疲労回復、血液サラサラ効果が期待できます。
梅干し100gあたり3.4gのクエン酸を含んでいます。
・その他有機酸類
梅干しには、クエン酸以外にもリンゴ酸、カテキン酸、コハク酸、ピクリン酸、酒石酸など、多くの有機酸類が含まれています。これらにはそれぞれ、胃腸や肝臓の働きを促し、全身の代謝を活発にする働きがあるほか、殺菌力、抗菌作用が強いのが特徴です。
この働きでコレラ菌やMRSA菌、黄色ブドウ球菌、虫歯の原因菌などを殺菌したり増殖を抑制したりすることがわかっています。
③ 梅リグナン
リグナンとは植物に多く含まれる物質で、私たちの健康に良い成分として注目されており、その中でも梅干しには下記の4つの成分が含まれています。
・エポキシリオニレシノール
インフルエンザウイルスの増殖を抑える働きがあります。
・ピノレシノール
抗酸化作用、抗炎症作用があります。
・シリンガレシノール
胃がんの原因となるピロリ菌の運動能力を阻害する働きがあります。
・リオニレシノール
がんは細胞のDNAの変異が原因でおこると考えられています。
リオニレシノールには、この変異を抑制・修復する作用があります。
梅の選ぶポイント
梅には小梅から大梅、また、青いものから完熟の物などさまざまなものが販売されています。どのようなものを選ぶにしても、熟成度合いやサイズが均一のもの、傷や痛みがないものを選びます。
梅のおすすめレシピ
【昔ながらの梅干し】
スーパーマーケットの店頭には、実にさまざまな種類の梅干しが販売されています。しかし、裏面の表記を見ると塩や赤紫蘇以外にもいろいろなものが添加されている製品があります。また、本来強い殺菌作用があるはずなのにもかかわらず、要冷蔵になっているものもあります。
今回は昔ながらの、原材料、塩、梅、赤紫蘇、焼酎、で作る梅干しをご紹介します。
【材料】
・梅 1kg
・塩 180g
・焼酎 適宜
(ホワイトリカー)
【作り方】
① 梅は、傷をつけないようにつまようじでなり口のヘタを取り除き、水の中できれいに洗い、水気をしっかりとふき取ります。
② ①の梅を焼酎の中でころがし、しっかりと消毒します。(特になり口のくぼみは雑菌がついている可能性が高く、傷みやすいので念入りに焼酎ですすいでおきます。)
③ 塩を全体にからませ、なり口のくぼみにはしっかりと詰め込み、清潔にした保存容器やファスナー付きのフリーザーバックなどに詰めていきます。
④ すべての梅を詰め込んだら残りの塩を上からふりかけ、保存容器の場合は梅の重量の半分程度(今回は500g)の重しを乗せます。(塩を入れたビニール袋で十分です。)フリーザーバックの場合は時々軽くゆすって塩を行き渡らせます。
⑤ 半日ほどで梅酢が上がり始めます。全体が梅酢に浸かっていないとカビが発生しやすくなりますので、半日に1回ほど容器(フリーザーバック)をゆすって全体に梅酢が行き渡るようにします。
⑥ 土用のころ、天気が良い日にザルなどに乗せて三日三晩干します。
※赤紫蘇を入れた梅干しにする場合は、梅1kgに対して赤紫蘇300g程度を用意し、たっぷりの水に浮かべるようにして砂を落としながら洗い、しっかりと水を絞ってから塩一掴みを加え、しっかりと塩もみをします。灰色の泡と黒っぽい紫の汁が出てくれば、パラパラになるまでしっかりと固く絞ります。梅から水分がしっかりと出てから、赤紫蘇を加えます。
土用干しをするときにしっかりと絞ってから併せて干し、細かくほぐすと、ゆかりふりかけも楽しめます。
『梅のレシピ』まとめ
梅干しは日本に住んでいる限り、最も身近なスーパーフードの一つですね。自分で漬けたものとなると、愛着もひとしおです。塩分が気になると、漬け込み時に減らしてしまうと、カビの原因になります。気になる場合は、出来上がってから、食べる分だけをあらかじめ水につけて塩抜きして召し上がってください。きゅうりやナスなど、カリウムが多い食品と併せて食べるのも、一つの方法です。
出来上がってすぐにはフルーティーな香りと強めの酸味、半年ほど経った頃からは、熟成して角が取れたまろやかな旨みが楽しめますよ。