老人性うつに、お悩みの方もいるでしょう。
または「もしかしたら老人性うつかも……」という疑いのある、家族をもつ人もいるかもしれません。
とくに一人暮らしの老人性うつは、通院などの必要も出てくるため、早めの治療・予防が大切です。
ここでは、老人性うつについてお伝えします。
目次
老人性うつとは
老人性うつとは、高齢者がかかるうつ病のこと。
罹患者が高齢者ということ以外、一般的なうつと大きな違いはありません。
ただし、若年層のうつに比べて、身体的な不調を強く訴える傾向にあります。
老人性うつも、一般的なうつと同様、過度なストレスで生じることもありますが、
周囲からの孤立感が原因で発症する例も少なくありません。
老人性うつの特徴として、以下3つが挙げられます。
◆老人性うつの特徴◆
- ①身体的な不調
- ②妄想性障害の発症
- ③不安や緊張が解けない
もしこれらの特徴がみられる場合は、老人性うつかもしれません。
具体的には、以下の症状が挙げられます。
◆老人性うつの基本的な症状◆
- ・気分が落ち込む
- ・何に対しても興味が湧かない、喜べない
◆基本的なもののほかに、発生の可能性がある症状◆
- ・体重の増減が著しい(あるいは食欲の過剰な増加または低減)
- ・睡眠不足または過多
- ・(緊張やあせりなどで)じっとしていられない、または身動きが取れない
- ・疲れやすく、気力が回復しづらい
- ・ネガティブな思考から抜け出せない
- ・物事に集中できない、判断能力の低下
- ・死について、繰り返し考えてしまう
これらの症状がみられる場合、老人性うつの疑いがあります。
老人性うつになる原因
なぜ老人性うつになってしまうのか、主な原因をみていきましょう。
(1)ライフイベントなどによる環境の変化
配偶者との別れ、定年退職、子どもとの同居、家族の介護など、新たな環境に適応せざるを得なくなったことで、老人性うつを発症してしまう人もいます。
ただでさえ環境の変化は負荷を感じやすいのに、高齢になると身体的にも精神的にも衰えが生じてきているため、若年層よりさらに大きなダメージを受けることが多いです。
また介護や死別など、悲観的なライフイベントも増えてきて、心身ともに立ち直れなくなってしまうケースも少なくありません。
また定年退職などを通じて、仕事を失った場合、生きがいを見つけられず、孤立感を深めてしまう人もいます。
(2)将来に対しての不安
病気やケガなどにより身体的に不自由が生じたり、経済的にままならなかったりすることで、将来に対しての漠然とした不安が芽生え、そのまま老人性うつを発症してしまうケースもあります。
若いうちは、気力や体力があり、さまざまな困難を乗り越えられたかもしれませんが、
年をとるにつれて、身体的にも衰えてきて、些細なことで「もうダメだ……」と思ってしまう人も多いでしょう。
とくに周囲に家族や仲間がいない人は、一人でグルグルと考え込んでしまい、深みにはまってしまいがち。
ときには仲間や家族などと会話し、考え方を変えたり、話して気持ちをスッキリさせたりすることが重要です。
(3)薬の副作用
鎮痛薬や抗がん剤などの薬の副作用で、うつ病を発症してしまうケースもあります。
老人性うつと認知症の違い
高齢者の病気と聞いて、真っ先に認知症を思い浮かべる人もいるでしょう。
しかし、老人性うつと認知症は、まったく異なる病気です。
それぞれの違いをみていきましょう。
老人性うつ | 認知症 | |
初期症状 | 頭痛、肩こり、吐き気といった身体的不調や抑うつ状態を覚える | 記憶違いが頻発したり、性格に変化が生じたりする |
症状が進行すると | 妄想や不安・緊張などの症状も併発するようになる | 物忘れなどがひどくなり、自活が難しくなる |
自覚症状 | あり | あまりない |
攻撃性 | あまり見られない | 攻撃的な性格になることもある |
治療 | 可能 | 不可(進行を遅らせることは可) |
ただし、老人性うつと認知症が同時に発症するケースもあるため、
何かしらの障害・病気が疑われるときは、早めに医師に相談しましょう。
老人性うつになってしまったら…
もし老人性うつになってしまったら、どうすればいいのでしょうか。
まずは必ず医師に相談してください。
そして、主に以下5つの治療方法が提案されます。
(1)環境調整
例えば、家族の介護が負担で老人性うつにかかってしまった場合などは、その状況から一度抜け出して、休養する必要があります。
負担を軽減する方法はないか、家族や医師、その他専門家などと話し合い、最適な環境をつくり上げていきましょう。
ただし、老人性うつの場合、あまり休みすぎるのもNG。
老人は体力の衰えが激しく、しばらく足腰を使っていないと、ケガなどをしやすくなってしまうことも……。
無理はせず、できる範囲のことは自ら行う。
配分が難しいのは分かりますが、うつ症状を改善するためにもトライしてみましょう。
(2)心理療法
カウンセリングなどを通じて、症状を改善することもあります。
老人性うつを発症している人の多くが、悩みや不満を抱えています。
なかには、誰にも打ち明けられず、悶々とした日々を送っている方もいるでしょう。
とくに一人暮らしの方は、同居の家族などがいないため、友人などにも相談しづらく、悩みを一人で抱えがちです。
そのような人たちの話に耳を傾け、寄り添ってあげる。
それだけでも、精神的な負担が大きく変わってくる場合があります。
心理療法のなかには、認知行動療法や対人関係療法などがあります。
認知行動療法とは、現在抱えている問題の論点を整理し、どうすればいいのかを一緒に考え、思考や行動を変えて、解決策を模索していく方法です。不安障害やうつ病などへの効果が認められています。
対人関係療法は、対人関係を見直すことで、うつ病の症状を改善する手段です。
これらの方法を駆使して、より生きやすい状態をめざしていきます。
(3)投薬治療
抗うつ薬や睡眠導入剤などを利用した、投薬治療も行われます。
ただし、投薬のみでうつ病が完治することは少なく、症状を改善するため環境を整えたり、カウンセリングを受けたりといった事柄と同時に行われることが多いです。
また高齢者の場合、薬の副作用の影響を受けやすく、その点も気をつけなくてはなりません。
(4)リハビリテーション(作業療法)
認知症治療のイメージが強い作業療法ですが、老人性うつに対しても行われることがあります。
作業療法とは、創作活動やスポーツなどを通じて、社会復帰するための治療法。
老人性うつの場合、お茶会や俳句作りなどを介して、回復を試みるクリニックもあります。
(5)物理療法
症状が深刻な場合、高照度光療法(強烈な光を朝に浴びることによって、体内時計を整える治療法)や、修正型電気けいれん療法(m-ECT:脳に短時間、電気刺激を与えることで、脳に変化を与える治療法)などの物理療法が行われることもあります。
老人性うつの予防方法
老人性うつの3つの予防法をお伝えします。
(1)生活リズムを整える
定年退職や、死別や離婚、子どもの独立などをきっかけに一人暮らしになった、などの理由で、
高齢になってから、生活リズムが崩れてしまった人もいるかもしれません。
働いていたときは、毎朝7時に起きて、朝食を食べて、夜は22時過ぎには寝ていたのに、
今は起きたいときに起きて、食事もとったりとらなかったり……。
そのような生活では、張り合いもなくなりますし、体調も崩しやすくなってしまいます。
まずは決まった時間に起きて、栄養のある食事をして、しっかり睡眠をとる。
生活リズムを整えることが大事です。
なかでも、注目したいのが、食事。
バランスのとれた食事をしている人は、心身ともに健康で、前向きに人生を送れる傾向にあります。
しかしなかなか毎食自分で用意するのは難しい、栄養バランスのいい食事を調理できる自信がない……、といった方々もいるでしょう。
そのような方々に、おすすめなのが食事の宅配サービスです。
例えば、「まごころケア食」のような栄養バランスを考えて作られた、冷凍弁当を利用すれば、
料理に自信のない人でも簡単に自らの体調に合った食事を楽しむことができます。
国立国際医療研究センターによると、とくに和食はうつ病予防に効果的とのことです。
なかには、「和食は塩分過多になりそう……」と不安を感じている人もいるかもしれません。
しかし、食事の宅配サービスのなかには、塩分制限食や糖質制限食など、栄養のバランスに配慮した食事を配達してくれるところもあります。
興味のある方は、ぜひチェックしてみてください。
(2)趣味をつくる
老人性うつを予防するのに、趣味をもつのも効果的です。
読書や映画鑑賞、ガーデニングなど高齢者でも手軽にできる趣味はたくさんあります。
無趣味という方は、ボランティア活動や資格取得に励んでみてはいかがでしょうか。
調査によると、65歳以上の半数以上が、過去1年以内に「社会活動に参加している」と回答しています。
最も多いのが、「健康・スポーツ(体操、歩こう会、ゲートボール等)」(27.7%)、次点が「趣味(俳句、詩吟、陶芸等)」(14.8%)です。
これらの社会活動に参加している人のほうが、生きがいを「十分感じている」と回答した割合が30.1%と高いです(参加していないと答えた方は、16.1%)。
(参考資料:令和4年版高齢社会白書(全体版))
趣味をもつことは、老人性うつを予防するだけでなく、仲間や生きがいを作ることにもつながります。
楽しいシニアライフを送るためにも、ぜひ新たな趣味や活動にチャレンジしてみましょう。
(3)運動をする
運動も、老人性うつ防止に一役買います。
運動すると、筋力が増加するだけでなく、気持ちもリフレッシュできます。
身体が動かせなくなると、活動範囲も狭まり、鬱々とした日々を過ごすことになります。
そうならないためにも、適度な運動を心がけて、健康的な毎日を送りましょう。
といわれても、「今までとくにスポーツなどの運動をしてこなかった」という人は、
急に「運動しろ」といわれても戸惑うかもしれません。
そのような場合、運動初心者向けのサークルやスポーツ教室に参加してみるのもいいでしょう。
「立って運動するのがしんどい」という人は、イスに座りながらの健康体操もおすすめです。
また運動が苦手な人は、日常生活を送るうえで生じる家事などの生活活動だけでもかまいません。
厚生労働省の資料には、買い物・犬の散歩・通勤・床掃除・庭掃除・洗車・荷物の運搬・孫と遊ぶ・階段昇降・雪かきといった生活活動を毎日40分以上行っていれば、運動はとくにしなくてもいいと記されています。
(参考資料:65歳以上の人を対象にした身体活動指針(アクティブガイド))
適度な運動は、睡眠にも良い影響を及ぼします。
65歳以上になると、若年層に比べて必要な睡眠時間が1時間ほど短くなる傾向にあり、25歳ぐらいのときは約7時間眠れていた人も、65歳を超えると6時間ほどしか眠れなくなったりします。
そのため、昔に比べて、眠れなくなったことを嘆く必要はありません。
老人性うつを予防するには、睡眠時間よりも、途中で目覚めないといった熟睡感のほうが重要です。
むだに長い時間寝床にいて、浅い眠りを繰り返すよりも、日中身体を動かして、短い時間でかまいませんので、熟睡したほうが健康にはいいとされています。
(参考資料:健康づくりのための睡眠指針2014)
老人性うつは治療&予防できる!
老人性うつについて、お伝えしました。
一人暮らしで周囲と接する機会があまりなく、つい鬱々とした気分で毎日を過ごしていると、「老人性うつかも……」という考えが頭を過ぎるかもしれません。
高齢者は、配偶者との死別や家族の介護など、今まで直面したことのない新たな問題に対峙することが多くなります。
そのため、急な環境の変化に追いつけず、老年性うつになってしまう人も少なくありません。
しかし、老人性うつは認知症と異なり、しっかり治療を受ければ、改善できます。
「まだ病院に行くほどではないけど……」という方も、生活リズムを整えて、趣味や運動などを楽しむ習慣を身につければ、老人性うつを予防できる可能性が高まります。
「老人性うつかも」と不安を感じている方は、進行を遅らせるためにも、今すぐ行動することをおすすめします。