住み慣れた自分の家であっても、加齢に伴う心身の変化によって、使いにくくなったり、事故やケガなどの危険が生じることがあります。
また、今は大丈夫であっても万が一のことを考えておくことで、安心して暮らすことができるようにもなります。
高齢になっても住み慣れた自分の家で安心・安全に暮らし続けられるために、住宅の工夫について紹介します。
目次
高齢者の加齢に伴う身体的変化
健康であっても、年齢を重ねるにつれて身体の変化は誰にでも起こります。
ひとつひとつの変化は小さなものであっても、日常生活のさまざまな場面でちょっとした不便を感じるようになったり、大きなケガや事故につながる可能性もあります。
加齢に伴う身体的な変化について知っておきましょう。
筋力
加齢に伴い筋肉を構成する筋線維が減少したり萎縮することで、筋肉量が低下します。
個人差はありますが、70歳では20歳と比較して約30%、筋肉量は低下しているといわれています。
さらに関節軟骨の変形によって手や肩、ひざ、股関節などの動きに制限が出たり、骨密度の低下や骨量の低下によって骨粗しょう症を発症するなど、家の中のちょっとした段差でつまずいて骨折するなどのリスクが高くなります。
視力・聴力・皮膚感覚
加齢に伴って、身体の感覚機能も低下していきます。
「老眼」に象徴されるように、視力の低下や視野の狭窄、動体視力の低下など視機能が低下したり、耳が遠くなる、温度感覚が鈍くなるなどといった症状が生じます。
人は日常的に目や耳、触れた感覚など、さまざまな感覚器から情報を得て生活していますが、感覚機能が低下することで早期に危険を察知することができず、転倒ややけどなどの事故につながる可能性が高くなります。
頻尿
加齢に伴って、トイレに行く回数が増える傾向があります。
膀胱炎や過活動膀胱など疾患が原因となることもありますが、高齢者では骨盤の中で内臓を支えている骨盤底筋が弱くなることも頻尿の要因となります。
夜間に何度も尿意で目が覚めてしまうことがあり、暗い家の中をトイレまで移動することは、転倒などの危険性があるため注意が必要です。
不眠
加齢に伴って生体機能リズムが変化するため、睡眠が浅くなって夜中に目が覚めたり、早朝に目が覚めてしまうことは誰にでも起こる変化です。
よく眠れないことは心身にも悪影響を及ぼすことがあり、血圧や血糖値などのコントロールがうまくできなくなったり、免疫力の低下や精神面の不調につながることもあります。
また日中に強い眠気が生じることがあり、思わぬ事故につながる可能性もあります。
バリアフリーとは
バリアフリーとは、生活の中の不便や障壁をなくすことです。
もともと建築用語として使われており、道路や建物の段差など物理的な障壁を取り除くことを意味していましたが、現在は広く、あらゆる人の社会参加を困難にしている障壁(バリア)の除去という意味で使われています。
バリアフリー住宅
高齢者にとって不便なことは、子どもや妊娠中の女性などにも不便であると考えられます。
言い換えれば、高齢者が暮らしやすい住宅は、誰にとっても暮らしやすいということです。
家族全員が便利で快適に生活できるための設備や機能などを備えた住宅は、今は不便を感じていない若い人も、先々まで安心して暮らすことができるといえるのではないでしょうか。
具体的にはどのような場所にどのような工夫をすることで暮らしやすくなるのかを挙げます。
手すり
加齢によって足腰に力が入りにくくなったとき、手すりがあることで動作が安定したり、転倒を予防できることがあります。
階段や廊下、脱衣所・浴室、トイレは、優先的に手すりを設置したい場所ですが、他にも手すりがあると便利な場所は多くあるので、生活のスタイルや心身の状態に合わせて、手すりの設置場所を考えましょう。
手すりにもいろいろな大きさや太さ、形状があるので、使う人や設置場所に合ったものを選び、適した位置に憑り取りつけることが必要です。
また手すりの使い勝手だけを考えると、隣接する扉が開かなくなったり、通路が狭くなるなどの不便が生じることもあるので、周囲の状況も確認しながら設置しましょう。
階段・段差
階段は1段の高さや、足をのせる部分(踏面)の幅によって上り下りのしやすさが変わります。
階段の構造を変えることは大きな工事になりますが、手すりの設置や滑り止めの加工は比較的安価でできることがあります。
玄関など段差の多い場所には踏み台を置いたり、手すりやスロープを設置すると転倒事故の防止に役立ちます。
室内のちょっとした段差は、滑りにくい素材でできたミニスロープなどを設置することで歩きやすくなったり、歩行器の使用が可能になることがあります。
扉
現在、病院や施設などでは一般的となっていますが、扉を引き戸にすることで、少ない力で開閉ができるようになります。
手を放しても扉がゆっくりと閉まるタイプのものは、手や指などを挟む事故も防ぐことができます。
開き戸と比べると開口部が広く、扉を開閉するためのスペースも少なくて済むため周囲を広く使うことができますが、横にスライドするスペースが必要になります。
照明
必要な明るさは年齢によって異なると考えられており、年齢を重ねていくとより高い明るさが必要だといわれています。
また疾患などによっても必要な明るさが異なったり、眩しさを感じることもあります。
照明スイッチは手の届きやすい位置に設置し、人感センサー機能のついた照明や間接照明、フットライト、調光機能のついた照明などを、生活の動線に配慮して設置すると転倒などの事故防止に役立ちます。
トイレ
トイレ出入り口の扉は引き戸が理想的で、鍵はつけないか、外からも開けられるタイプの方が安心です。
便器への立ち座りの際に姿勢を安定させたり、座位を保つためにも手すりの設置は効果的です。
手すりの位置は便器と出入り口の位置によっても異なりますが、扉の開閉時につかまることができる場所と、トイレ内を便器まで移動するまでの動線、便器の立ち座りに必要な位置に設置しましょう。
便座の高さによっても立ち座りのしやすさが変わるため、便座の高さを調整するための補高便座やトイレリフトなどの設備もあります。
便器の交換が可能な場合は、ふたの開閉や水洗が自動のタイプのものを選ぶと、トイレ内での方向転換や動作の数を減らすことができるため、便利なだけではなく転倒など事故の防止にも役立ちます。
脱衣所・浴室
浴室の床は滑りやすいことが多く、転倒の危険が高い場所です。浴室の床材は滑りにくいことに加えて水はけがよく、転倒時の衝撃を吸収したり、冷たくなりにくい断熱性のある素材が理想的です。
床材そのものを変えることが難しい場合は、滑り止めマットなどを敷くのも効果的です。
浴室の出入り口と、洗い場での立ち座りや浴槽への出入り時につかまりやすい場所に手すりを設置すると転倒防止に役立ちます。
必要に応じて浴槽の内部にも手すりがあると、浴槽内での座位を保つために役立つので、さらに安心です。
浴槽の高さは30~40㎝程度がまたぎやすいといわれており、高さを調整するための浴室用の踏み台や、すのこなどを使用するのも効果的です。
間取り
家の建て替えや大きなリフォームをするときには、間取りにも配慮しておくことで、万が一介護が必要になったときにも安心して暮らすことができます。
床の段差をなくすことはもちろん、廊下や扉のスペースを広く確保しておけば、室内でも歩行器や車いすの使用が可能となります。
日中の滞在時間が長い部屋と寝室にトイレを隣接させたり、日常生活の動線を考えて部屋を配置し、扉の数を減らして部屋の行き来がしやすいようにできるのが理想的です。
高齢者が暮らしやすい住宅の工夫
加齢に伴う身体の変化は誰にでも起こることであり、それまでは問題のなかった日常生活の中にも、不便や危険が生じることがあります。
高齢者の身体の状態を理解して想像することで、起こりうる不便を解消したり、危険を回避することができます。
現在は高齢者にとって暮らしやすい工夫のされた住宅や設備、備品が多く開発されているため、それらを利用することも有効と考えられます。
介護が目的のリフォームや備品のレンタルには、補助金や介護保険が利用できる場合もあるため、自治体の窓口や担当のケアマネジャーなどに相談してみましょう。
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