令和2年現在、日本の平均寿命は男性81.56歳、女性は87.71歳です。今後も平均寿命は男女とも延びていくと予想されており、令和47年には男性84.95歳、女性は91.35歳と見込まれています。
寿命が延びることは社会構造の変化にもかかわり、高齢者の生活環境にもさまざまな影響を及ぼす可能性があります。
そのひとつが高齢者の一人暮らしの増加です。今後増加することが予測されている、高齢者の一人暮らしについて考えてみましょう。
目次
高齢者の一人暮らしの現状
内閣府が実施した令和3年度の「高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況」から読み取れる、高齢者の一人暮らしの現状について考えてみます。
高齢者のいる世帯数と構成
令和元年(2019年)時点で65歳以上の高齢者がいる世帯は全世帯のおよそ半数(49.5%)を占めており、39年前の昭和55年(1980年)の24.0%と比較すると倍増しています。
昭和55年では全世帯中最も多いのが三世代同居で50.1%と半数を占めており、夫婦のみの世帯は16.2%、単独世帯は10.7%でした。
令和元年になると夫婦のみの世帯が32.3%とほぼ倍増、単独世帯は28.8%と2.5倍以上に増えており、三世代同居は9.4%と激減しています。
高齢者の一人暮らしの動向
65歳以上の一人暮らしの高齢者は男女ともに増加しており、昭和55年では人口の4.3%が男性、女性が11.2%でした。
40年後の令和2年には男性は15.0%、女性は22.1%となっており、女性の一人暮らしの方が多いことに変わりはありませんが、男性の一人暮らしの方が増加率は高くなっています。
2018年国立社会保障・人口問題研究所の推計では、20年後の令和22年(2040年)65歳以上の女性の一人暮らしは24.5%、男性は20.8%と予測されており、65歳以上の4~5人に1人が一人暮らしをしているというイメージになります。
高齢者が一人暮らしになる理由
高齢者が一人暮らしになるとき、その理由にはどのようなことがあるのでしょうか。
家族がいない
若い頃から一人暮らしをしていて家族がいない人が、高齢者になっても一人暮らしを継続しているケースがあります。
国勢調査を基に算出された「50歳時の未婚率」は年々増加しており、昭和45年(1970年)には男性1.7%、女性3.3%だったものが平成27年(2015年)は男性23.4%、女性14.1%に上昇しています。
現在の未婚率や晩婚化の傾向が継続した場合、令和17年(2035年)には男性でおよそ3割、女性でおよそ2割の人が50歳時に未婚であると予測されています。
独身者が必ずしも一人暮らしとは限りませんが、同居していた親や家族が亡くなったあと一人暮らしとなることもあり、高齢者の一人暮らしにつながる可能性は高いと考えられます。
家族を頼れない
さまざまな事情により家族を頼れない、または高齢者本人の意思によって家族を頼らずに一人暮らしをしているケースがあります。
子ども世代が近くにいない、または近くにいても仕事や子育てなどそれぞれの生活があることで頼りにくかったり、家族関係が良好でなかったり疎遠である場合には、高齢であっても一人暮らしを続けていることがあります。
また高齢者自身が、生活時間や経済的な制約を受けずに自由な生活を望む場合、自ら家族と離れて一人暮らしをしていることもあります。
現状に不満がない
子ども世代が独立し高齢者だけの世帯になったときに、健康面や経済的に不満や不安がなければ、そのままの生活を継続していくことが考えられます。
年齢を重ねていくうちに、同居していた配偶者などが亡くなって一人暮らしになったとしても、生活に不安や不便がなければ、そのままの生活を継続していくケースは多いと考えられます。
生活環境を変えたくない
平成30年高齢者の住宅と生活環境に関する調査では、現在の住まいの居住年数が「31年以上」と「生まれたときから」を合わせると、およそ6割の人が長期間同じ住宅(地域)に居住していることがわかります。
これは年齢が上がるほど高くなっており、子どもが独立したり配偶者が亡くなったあとも同じ住宅に住み続けることで、結果的に高齢者の一人暮らしにつながっていると考えることができます。
また長期間同じ住宅や同じ地域に住んでいる場合には、高齢になっても慣れた住宅や地域で生活をしていきたいということも理由のひとつといえます。
高齢者の一人暮らしの問題点
高齢者本人が望んで一人暮らしをする場合と、やむを得ず一人暮らしになってしまう場合では、さまざまな問題に対する準備や予防策が異なると考えられますが、年齢を重ねるにつれて、一人暮らしには問題や困難が生じる可能性が高くなっていくことが考えられます。
孤立死
平成30年内閣府による「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」でも、60歳以上の一人暮らしの人の半数以上が孤立死(誰にも看取られることなく、亡くなったあとに発見される死)を身近な問題と感じる(「とても感じる」と「まあ感じる」の合計)と答えています。
実際に東京都監察医務院が公表しているデータでは東京23区内における65歳以上の孤立死と考えられる事例は増加しており、60歳以上の人の自殺者は減少していることを勘案すると、病気や老衰、不慮の事故などによる孤立死が増加していると考えることもできます。
認知症の発症
一人暮らしの場合、認知症を早い段階で発見することが難しく、地域のルールが守れなくなったり近隣住民とのトラブルに発展する可能性もあります。
認知症は個人的でデリケートな問題を含むことがあるため、周囲の人が異変に気付いたとしても、家族以外の人が受診や介護認定について相談することが難しいケースもあり、対応が遅れてしまうことがあります。
厚生労働省では高齢者の一人暮らしの増加に伴い、2025年には一人暮らしの認知症高齢者は約150万人に及ぶと見込んでいます。
犯罪被害
オレオレ詐欺に代表される特殊詐欺や悪質商法、ひったくりやすりなどの窃盗などの犯罪は高齢者が狙われる可能性も高く、特に知能犯における高齢者の被害割合は高くなっています。
高齢者の中では70歳以上の女性の被害者が最も多く、オレオレ詐欺や還付金詐欺などの特殊詐欺被害が多くなっています。
犯罪グループの中には、あらかじめ一人暮らしの高齢者であることを調べた上で狙うこともあるため、注意が必要です。
高齢者の一人暮らしを支えるには
今後も少子高齢化は進行すると見込まれており、高齢者の一人暮らしも増加することが予測されます。
高齢になっても住み慣れた地域で、安心して一人で暮らしていくためには何が必要でしょうか。
地域のつながり
令和4年版高齢者白書では、近所の人との付き合いがある人の方が、生活の中に「生きがいを感じている」人が多いという結果が出ています。
日常生活の中で生じるちょっとした困りごとなどについても、近所の人に気軽に頼めたり助け合うことができれば、一人暮らしであっても安心感を持つことができます。
また高齢者自身が地域の行事や町内会・ボランティアなどの活動に参加することで活動性が高まり、健康維持にも役立つと考えられています。
家族の協力
たとえ近くに住んでいなくても、いざというときに心強いのは家族の存在です。
生活していく上で必要な行政手続きや入院・治療にかかわる手続きなど、家族の協力が必要なこともあります。
さまざまな事情によって同居ができない場合でも、定期的に連絡を取り合ったり、様子を確認できることが理想的です。
ICTの活用
ICT(情報通信技術)は、パソコンやスマートフォン、タブレットなどの端末機器を使って情報を処理したり共有することができる技術のことです。
高齢者本人がパソコンやスマートフォンを利用できることで日常生活に楽しみが生まれたり、脳の活性化にも役立つといわれています。
さらにICT機器を活用することで、離れて暮らす家族とコミュニケーションがとりやすくなったり、安否確認ができるなど、お互いに安心感が得られたり負担を軽減することができます。
『高齢者の一人暮らし』まとめ
平均寿命が延び、晩婚化、少子化などによる社会構造の変化によって、高齢者の一人暮らしは今後も増加していくと予測されています。
高齢者が自ら望んで一人暮らしをする場合もあれば、さまざまな理由によってひとり暮らしを余儀なくされる場合もあります。
年齢を重ねていくことで生活の中に問題が生じる可能性は誰にでもあるため、安心して生活できるための備えとつながりを作っていくことが必要といえます。
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