少子高齢化の進んだ日本では身寄りがない高齢者が増加しており、今後も増加していくと予測されています。
心身ともに健康なうちは、身寄りがない高齢者が一人暮らしをしていても、本人も周囲もあまり気にならないかもしれません。
しかし何かあったときに頼れる人がいないと、高齢者本人にもその周囲にもいろいろな問題が生じます。
身寄りがない高齢者が安心して一人暮らしを続けるためにはどのような備えができるのでしょうか。
目次
身寄りがないとはどんな状態?
「身寄りがない」とは実際に親兄弟や配偶者、子どもといった近親者がいないことだけではなく、家族や親類と連絡がつかない状況や、家族がいても家族の支援を得られない状況も当てはまります。
「身寄りがない」とは社会的に孤立している人と考えられており、状況によっては高齢者でなくても身寄りがなくなる可能性はあり、さらには誰でも「身寄りがない高齢者」になる可能性があるといえます。
身寄りがない高齢者に生じる問題とは
心身ともに健康な高齢者は一人暮らしであっても困りごとを感じることは少ないかもしれませんが、徐々に体力や心身の機能が低下してくると、日常の中の小さなことから何かトラブルが起きたときまで、さまざまな困りごとや問題が生じる可能性があります。
日常的な困りごとを頼む人がいない
力仕事や高所作業など、高齢者にとって大変な軽作業は日常の中にいろいろと存在します。
また風邪など軽微な体調不良時にも、買い物や食事の準備などを気軽に頼める人がいないと困ることがあります。
犯罪に巻き込まれやすい
一人暮らしの高齢者はさまざまな犯罪に巻き込まれやすいと考えられます。
空き巣や強盗などの犯罪者は、住居の様子から高齢者の一人暮らしがわかるといわれていますし、手口が巧妙な特殊詐欺や悪徳商法などは、高齢者には判別しにくい方法で近づいてくるため、注意が必要です。
病気や死亡時の発見が遅れる
体調の急変があったときの発見が遅れてしまうことで重篤な状態になったり、死に至る可能性があります。
一人暮らしで身寄りがなく、近隣住民とのかかわりが少ない高齢者の場合は、周囲に本人の異常を知らせる方法がなく発見が遅れることになります。
身元保証人・身元引受人がいない
入院時や施設入所の際には、身元保証人を求められることがあります。
身元保証人がいないことで入院や施設入所ができないことはありませんが、代替となる手続きや契約が必要なことがあります。
また身寄りのない人が亡くなった場合にご遺体を引き取る人がいないと、戸籍から探した親族に引き取りが依頼されたり、自治体によって法に基づいた最低限の火葬・埋葬が行われるため、本人の意思や希望が反映されないことがあります。
相続のトラブル
身寄りがない人が亡くなったあと、遺言状などによって相続人が指定されていない場合、法定相続人がいればその順位に従って相続され、いない場合には最終的には国庫に入ります。
身寄りがないといっても親類が全くいないとは限らず、財産や負債があることでトラブルを招くことがあります。
身寄りがない高齢者を支援する仕組み
日常的な困りごとや何かあったときのための備えまで、身寄りがない高齢者を支える仕組みがあります。
行政が実施している支援も民間企業が行っているものもあり、それぞれに特徴があります。
高齢者が安心して一人暮らしを継続するために、どのような支援があるのかを知っておきましょう。
生活支援サービス
生活支援サービスは、見守りや安否確認、外出支援、買い物や掃除などの家事支援ほか、日常生活の中で生じる困りごとを支援するサービスです。
自治体が実施するものや民間企業やNPO、ボランティアが主体となって実施されるものもあり、事業主体によってサービスの種類や内容、費用は異なります。
日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業は都道府県や指定都市社会福祉協議会が実施主体となって、認知症高齢者や知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な人が地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき福祉サービスの利用援助などを行うものです。
利用するときは居住地の社会福祉協議会や自治体窓口に相談・申請し、利用希望者の意向を確認しながら策定された支援計画に基づいて支援が実施されます。利用料は自治体によって異なります。
身元保証サービス
身元保証人は民法において債務者が支払いなどを行わなかった場合に、本人に代わってその責任を負う人とされています。
高齢者では、入院や施設入所などの際に身元保証人を求められることがあります。
それぞれの状況によっても異なりますが、身元保証人の役割は、緊急連絡先や各種手続きの代理、意思決定の代理、支払いの連帯保証、本人の身柄や荷物の引き取りなどがあり、身元保証サービスの内容や費用は事業所によって異なります。
成年後見制度
認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない人を保護したり支援するための制度です。
財産管理や契約締結のほか、犯罪やトラブルに巻き込まれるのを防ぐことができます。
成年後見人と身元保証人は役割が重複する部分もありますが、成年後見人は身元保証人になることはできないため、状況によっては成年後見人がいても身元保証人を求められるケースもあります。
成年後見制度には大きく分けて「法廷後見制度」と「任意後見制度」があり、管理財産の額や業務内容によって成年後見人への報酬が必要となります。
任意後見制度
本人が十分な判断能力を有するときに、あらかじめ、任意後見人となる人や将来その人に委任する事務の内容を公正証書による契約で決めておき、本人の判断能力が不十分になったあとに、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行う制度です。
任意後見人は裁判所で認められれば誰でもなることができ、専門家に依頼することもできます。
任意後見人制度の契約を開始するには、任意後見受任者や家族などが家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てを行う必要があり、任意後見監督人が選任されると契約が開始されます。
任意後見制度には、判断能力が低下する前に自分で契約内容を決められるメリットがあります。
法廷後見制度
判断能力が不十分な方に対して、本人の権利を法律的に支援・保護するための制度です。
医師の診断による本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型があり、判断能力が欠けているのが通常の状態の場合には後見人、判断能力が著しく不十分な場合には保佐人、判断能力が不十分な場合には補助人を裁判所が選任します。
財産管理等委任契約
財産管理等委任契約とは、財産管理と療養看護に関する委任契約のことで、事故や病気で心身の健康が損なわれたときなどに、信頼できる人に財産管理や各種手続きを代行してもらう契約です。
成年後見制度のように判断能力については制約がないので契約内容に本人の希望が反映されやすいといえますが、公正証書の作成などの手続きは必要なく監督者がいないため、契約が実行されているか確認できず社会的信用は十分ではないことがあります。
死後事務委任契約
人が亡くなったあと、一般的には葬儀だけではなく医療費や公共料金の支払い・停止、年金受給の停止など、いろいろな手続きが必要となります。
それらの事務手続きを「死後の事務」といい通常は家族などの親族が行いますが、それらを実施する人がいない場合の代行を契約するものです。
死後事務については遺言状に記載があっても法的強制力がないため、遺言状の執行者が親族でない場合は、遺言状の執行者と死後事務委任契約を結んでおくとよいでしょう。
『身寄りがない高齢者の問題』まとめ
「身寄りがない」とは天涯孤独の状態だけではなく、家族や親類と疎遠な状況も当てはまります。
身寄りがない一人暮らしの高齢者には日常的な生活で生じる困りごとや、体調の急変や心身機能の低下によって生じる不安など、さまざまな問題が生じる可能性があります。
身寄りがない一人暮らしの高齢者に生じる不安や問題を解消するために利用できる支援サービスは行政にも民間企業にもいろいろとあるため、まずは居住地の地域包括支援センターに相談してみましょう。
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